豪華な朝食には危険がいっぱい 「私の事件簿 №2」(ノンフィクション)
Last Updated on 2025年6月13日 by 管理者 Nikifarm
おはようございます
血圧(132と97)
昨日は1日中畑で過していた、そろそろズッキーニの収穫がはじまり楽しみが増えています。
目 次

紙(神)一重
あれは、今から十数年前。
私が勤務していた南の美しい島での事件だ。
朝の定番「爆弾おにぎり」
その朝も、いつものように私は一番乗りで庁舎に入った。
宿直明けの同僚と、朝の他愛もない雑談を交わす。
「朝食買いに〇町の民宿に、行ってくるけど何かいります?」
「爆弾おにぎり、なければ昆布とおかかで味噌汁付きでお願い。」
この爆弾おにぎりがボリューム満点で絶品なのだ。
普通のおにぎりの2倍はある巨大な海苔巻きおにぎりで、中には梅、昆布、明太子の3種類が詰め込まれている。

がっちりと海苔で巻かれ、まさに“爆弾”の名にふさわしい重量感だ。
それを自席で頬張りながら、本庁からのメールに目を通していたところ
通報
「次長、〇〇〇〇遊泳場でイセエビの密漁をしていると、通報がありました」
──イセエビ?こんな早い朝っぱらからか・・・?
普通、伊勢海老の密漁は夜に岸壁で明かりを灯して、そーーとやるのだ。
明るい、しかも朝に、信じがたい話だった。
島民はなぜか手に入るので採る必要はない、島民がいれば逆に必ず注意しているはずだ。
それに、この島では漁師以外は伊勢海老の捕獲は禁止されている。
しかも今は禁漁期間もあるし。
(漁業法第195条:罰金100万円以下。さらに5月15日~9月15日は産卵保護期間。
体長13cm未満は採取禁止。)
現地へ──反時計回りのドライブ
私は、こういう時は無駄でもなんでも現場に行くことを基本にしている。
原則は
「現場第一主義」
パトカーに乗り込み、島を反対回りに南へ11キロほど走る。
反対回りと言うのは、島のイベントのマラソン大会は、時計回りを基準としているので、島民はそう言うのだ。
途中、カエル横断地帯を通過。
雨あがりは特に下りのカーブが危険だ。
大型のウシガエルがウヨウヨと道を横切る場所で、踏んだらタイヤが滑るので本気で注意が必要になるのだ。

ここにはしっかいりと注意書きの看板が設置されている。
”カエルに注意”
そして、キャンプ場の手前の入口で右折。
その先は、軽自動車がやっと通れるほどの細い1本道だ。
道を抜けると、やがて海が開ける──そこに、整備されてはいるが表示もロープもない、名ばかりの「駐車場」がある。
せいぜい6台が限界の、草地と砂利の中間のような地面。
地元の人間しか駐車場と気づかない、そんな場所だ。
そこに車を止め、徒歩で数十メートルほど下ると──
透き通る海と、釣りをする影
突如として広がる、夢のような南国の海風景。
水は透き通り、四角い桝形のテトラがあり、その中を赤・黄・緑色のトロピカルな綺麗な魚達が群れを成して泳いでいる。
まるで野外の熱帯魚水族館だ。
島でもこの場所だけは、海に入らなくても上から見ただけで透明度がすごいので、誰でも魅了される。
だが──
そこに不釣り合いな三人の男たちが、短い竹の棒で釣りをしている。
30代ほどのアジア系。
おそらくベトナム人だろう。
釣竿を手に、音がしたのかこちらを心配そうに見ている。
そのうちの一人は、バケツに素早く蓋をし、その上に腰を下ろした。
この不自然な動きに、私は瞬時に察した。

──こいつらだ。
早朝からやってくれたか・・・
聞いてみると、彼らは島の公共工事に携わる建設作業員であることが判明。
私もよく知っている〇〇興行の会社の寮に住み、日々汗を流しているという。
私は事情を話した。
「このあたりで、伊勢海老の密漁があるという通報がありました。ちょっと確認させてもらってもいいかな?」
男たちの表情がみるみる曇った。
バケツの中の“告白”
そして──その時だった。
ギィー、ギーギーギー・・・・
でたーーーー伊勢海老特有の鳴き声、ベトナム語が通じなくても伊勢海老語が証言してくれてる。
島に来て初めて聞いた時は何が鳴いているのか分からなかったが、今ではすぐに
伊勢海老でしょ。
島に来て、「キョン語」と「伊勢海老語」の鳴き言葉は把握した。
バケツの中から、あの伊勢海老特有の金属的な鳴き声が響いたのだ。
まるで、事実を自ら告げるかのように。
「ちょっとバケツ、開けてもらえますか?」
ゆっくりと蓋が開く。
そこには、立派な伊勢海老が5匹、大きな頭と角をつけて身じろぎしながらうごめいていた。
私は証拠保全のため、すぐに彼らと共に写真を撮った。
スマホの画面越しに、その赤黒い甲殻と、身をよじって鳴く様が静かに映し出される。
彼らも写真を撮られることで事の重大さを悟ったようだった。
「これは返さないといけませんね。貴重な命ですから」
私たちは、彼らと一緒に、海岸の岩場に立った。
静かな儀式──命を返す
男の一人が、ぎこちなく伊勢海老をつかみ、海にそっと放った。
ギー……ギッ
伊勢海老はひと鳴きして、尻尾を使って水中に姿を消した。

ちょうど朝日が差し込んで、エビの甲殻が一瞬、金色に光ったように見えた。
その瞬間も、記念撮影の写真に収めた。
ただの記録ではない。
「命を返す」という、静かな儀式のような場面だった。
法と情のはざまで
その後、彼ら3人を本署に任意同行。
社長を呼び、事情を説明し、任意捜査簿に記録。
処分は始末書に留めた。
法律は守らなければならない。
だが、異国の地で島のインフラを支える労働者たちに、ただ制裁を加えるだけでいいはずはない。
島の一員として、共に生きるという視点も必要だと私は思った。
伊勢海老の声は「ありがとう」だったのかもしれない
伊勢海老の鳴き声が、朝の海に高らかに響いた。
あれは、叱責でもない。
むしろ「ありがとう」にも聞こえた。
紙一重の判断が、神一重となる瞬間。
この島では、そんな奇跡が、静かに起きているのだ。
そして、冷めた味噌汁と──
彼らの朝食は、毎朝獲れたての伊勢海老汁だったそうな。
それに比べると、私の机の上には冷えた発泡スチロールのカップ味噌汁。
人生、少しの差が、妙に沁みるのだ。


